昔から砂漠に憧れがあった。
見渡す限り砂漠が続いていて、人工物は何もない。灼熱の太陽がぎらぎらと照りつける。蜃気楼がまるで輝く湖のようにユラユラと見え、それをオアシスと勘違いする事で体力を奪われ倒れる冒険家。
そんな絵本の中のような世界に冒険心のような浪漫をもっていた
小学生のころ、星の王子様が流行った時期があった。そのとき作者のサン=テグジュペリの特集するテレビ番組を見た。サン=テグジュペリはフランスの飛行機のパイロットで、モロッコあたりを飛行していた。その際、飛行機が故障しサハラ砂漠で遭難した。そのときの体験をもとに書かれたのが星の王子様だという。
星の王子様の内容も、砂漠に不時着したパイロットが遠くの星からやってきた不思議な小さな王子様と会話しながら、大切なものを見つけるというストーリーなのだ。
星の王子さま砂漠で遭難した極限状態の妄想といっていい。そんな星の王子様に不思議と魅力を感じていた。
◯
そんな理由で、モロッコを訪れたときサハラ砂漠に行きたいと思った。
砂漠は世界中にあるけれど、僕が子供の頃から憧れた砂漠は、サン=テグジュペリが遭難した砂丘のあるサハラ砂漠なのだ。
サハラ砂漠を見に行こうとすると、有名な町がある。メルズーガという街だ。
マラケシュからバスで丸一日かかる。
僕が予約した席は、結露でビチャビチャになっていた。全く不運である。流石に運転手に抗議したが、席は満席。近くの叔父さんが新聞紙をくれ、下に敷かせてもらった.
マラケシュのバスセンター
道中の景色
◯
丸一日の長距離バスというのは本当にしんどい。メルズーガについた時、僕は息も絶え絶えだった。
宿の叔父さんはとても親切だった。深夜にバス停まで迎えにきてくれ、そのままホテルで食事をとった。素朴なスープが身体中に染み渡った。
ホテルの食事
◯
翌朝、朝ごはんを食べてゆっくりしていると、雨が降ってきた。
これから観光しようと思っていたので残念に思ったが、宿の人は小躍りしながら喜んでいた。そうか、ここは砂漠の町なんだ。
僕は宿の叔父さんに「僕は雨男なんだ、旅行するときよく雨が降るんだ」と言った。
彼は「君のおかげだね。君は幸せを運んで来る男だよ。」と言った。
修学旅行や運動会がよく雨になったので、自分はもしかしたら雨男なのでは?と悲しく思っていたが、砂漠の町では雨男が最も歓迎されるのだと知った。
砂漠の雨
◯
町を散策してみる。
ホテルの目の前に砂漠が迫っている。
砂丘の前の道を自転車に乗る少年通っていく、その光景に奇妙な違和感を覚えた。
少年と砂漠
砂丘に向かって歩いてみる。足を取られてなかなか進めず、高さ30mくらいの大きな砂丘のてっぺんに付いた時には、へとへとになってしまった。
砂丘のてっぺんから周りを見渡してみる。近くに町があるせいか、イマイチ気分が出ない。
僕が期待していたのは、見渡す限り人工物のない砂漠で、世界の果てに取り残されたような不安感だったのだ。
少し残念な気持ちになりながら宿に帰った。
◯
次の日、砂漠のキャンプツアーに参加した。
らくだに三時間ほど揺られて、砂漠の奥のキャンプを目指す。
ガイドのユセフ。ひらがなを教えてあげる。僕はアラビア語を習った。
進むと、だんだん人工物が見えなくなってくる。
夕日に染まる砂丘
◯
夕日が沈む直前にキャンプ地についた。
晩御飯を食べたあとは、焚き火をしながら談笑する。拙い英語でかぐや姫伝説や織姫と彦星の話をしたり、モロッコの星の話を聞いたりした。
砂漠の夜空はプラネタリウムのように満天の星空で、黒い部分より星の部分のほうが多いのではないかと思ってしまうほどだ。
マットレスを敷いてもらって寝転がって見る。しかし砂漠の夜は本当に冷える。30分もすると足がジンジンとしてくる。我慢できなくなると、小さなテントに潜り込み、毛布を3重にして眠りについた。
翌朝、朝日の前に起こされる。
朝日に染まる砂漠は本当に美しかった。
嵐の大海原の一瞬を切り取り、粘土細工で固めたような光景だった。
今回僕が行ったのは、サン=テグジュペリが体験したような360度見渡して何もないような砂漠ではなかった。僕が期待していた世界の果て一人取り残されたような体験はできなかった。
それでも砂漠の姿は本当に美しく感動した。もう一度訪れたいと強く思う。
同時に、僕が望むような砂漠は旅行でいける範疇ではなく、冒険家が行く世界なのかもしれないとも思った。
一生に一度でいいから、そんな砂漠に行きたいという思いを噛み締めながら、メルズーガから出るバスに乗り込んだ。
◯
今回僕が滞在したのはホテルオアシス。
ホテルのおじさんは本当に親切で、別れるときにはバスの中で食べるようのお菓子を買ってくれた。
ホテルオアシスの看板
ホテルのおじさん