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北一輝についてまとめてみた

 

北一輝について、簡単にまとめてみた。

 

要旨:

 北一輝は単なる右翼と考えられがちだが、彼の思想は社会主義的かつ民主主義的であり、現代では進歩的な思想家として評価され始めている。彼の思想は、ノーランチャートにおいて全体主義に区分され、ナチスと類似する部分がある。

 

本文:

1.北一輝の生涯

1883 新潟県佐渡市に酒造業者の長男として生まれる

1906 『国体論及び純正社会主義』を自費出版

1911 辛亥革命。黒竜会特派記者として上海に向かう

1913 宋教仁暗殺される。上海日本総領事の処分により帰国

1916 『支那革命外史』を執筆。一輝と号する。

1919 『国家改造案原理大綱』(のち日本改造法案大綱と改題)を執筆

1923 『日本改造法案大綱』部分削除版、出版

1932 五・一五事件。北と青年将校との接触始まる

1936 二・二六事件。逮捕

1937 同事件の理論的首謀者として死刑

 

2.北一輝研究

 初めての北一輝についての研究は、田中惣五郎『日本ファシズムの源流~北一輝の思想と生涯』(1949)であり、北一輝を「日本ファシズムの源流」とする一般的な見方を決定づけた。

 久野収『戦後日本の思想』(1956)において、北への解釈に新たな一面が加わった。久野は、北の思想を明治の伝統的国家主義や昭和の軍部によって体制化したファシズムと対極の思想とし、吉野作造民本主義と共通する性格を持つものとした。久野は「伊藤の憲法(明治の大日本帝国憲法)、すなわち天皇の国民、天皇の日本、から逆に国民の天皇、国民の日本という結論を引き出し」たと北を評価した。だが、中国での「体験から、自己の社会主義の実現する革命は軍隊が主力だ、軍事革命は軍事独裁を必要する、という信念を確立した」(p161)とした。

 池田信夫は、北の思想をこのように評した。「北一輝といえば、一般には二・二六事件を煽動した狂信的なファシストぐらいにしか思われていないだろう。しかし私は、彼は近代日本のもっとも重要な思想家の一人であり、現代にも深い影響を与えているという点では、ほとんど福沢諭吉に匹敵する」とし、「北の基本思想は昭和初期の右翼のような超国家主義ではなく、むしろマルクスに近い社会主義である」と解釈している。(2007)

 

3.ファシストであり社会主義者 ノーランチャート

 これまでの先行研究でわかるように、北をファシストとする見方と社会主義者とする見方の二つがある。両者は排他的ではなく、両方あてはまるとする見方がある。ファシストであり、社会主義でもあるところに北の思想のカギがあると言える。ノーランチャートを用いて分類すると、北の思想は全体主義に分類することが出来る。全体主義にはナチスも含まれている。

ノーランチャートとは、精神的自由と経済的自由を軸として政治思想の概念図である。

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4.ナチスとの比較

 先ほどのノーランチャートの分類から、北一輝の思想とナチスは同じ全体主義といえる。北の思想とナチスの思想を比較したい。

ナチスの「25か条綱領」と北の「日本改造法案大綱」を見てみよう。

 ナチスの「25か条綱領」
11不労所得の撤廃、寄生地主の打倒
14我々は、大企業の利益の分配を要求する
15我々は、老齢保障制度の大幅な強化を要求する
16我々は、健全な中産階級の育成とその維持、および大規模小売店の即時公有化、小規模経営者に対するその安価な運賃、全小規模経営者に対して最大限考慮した国家・州または市町村に対する納品を要求する
17我々は、我が国民の要求に適した土地改革、公益目的のための土地の無償収容 を定める法の制定、地代徴収の禁止と土地投機の制限を要求する
25我々の要求をすべて実行するために:国家の強力な中央権局の確立。中央議会の国家全体および組織一般に対する絶対的な権威。公布された国家の大綱的法規を連邦各州において実施するための階級・職業別の団体の形成

 

 北の「日本改造法案大綱
巻一 国民の天皇憲法停止-天皇の原義-華族制廃止-普通選挙-国民自由の恢復-国家改造内閣-国家改造議会-皇室財産の国家下附
巻二 私有財産隈度私有財産限度-私有財産限度超過額の国有-改造後の私有財産超過者-在郷軍人団会議<
巻三 土地処分三則私有地限度-私有地限度を超過せる土地の国納-土地徴集機関-将来の私有地限度超過者-徴集地の民有制-都市の土地市有制-国有地たるべき土地
巻四 大資本の国家統一私人生産業限度-私人生産業限度を超過せる生産業の国有-資本徴集機関-改造後私人生産業限度を超過せる者-国家の生産的組織-その一銀行省-その二航海省-その三鉱業省-その四農業省-その五工業省-その六商業省-その七鉄道省-莫大なる国庫収入
巻五 労働者の権利労働省の任務-労働賃銀-労働時間-労働者の利益配当-労働的株主制の立法-借地農業者の擁護-幼年労働の禁止-婦人労働
巻六 国民の生活権利児童の権利-国家扶養の義務-国民教育の権利-婦人人権の擁護-国氏人権の擁護-勲功者の権利-私有財産の権利-平等分配の遺産相続制
巻七 朝鮮その他現在および将来の領土の改造方針朝鮮の郡県制-朝鮮人の参政権-三原則の拡張-現在領土の改造順序-改造組織の全部施行せらるべき新領土
巻八 国家の権利徴兵制の維持-開戦の積極的権利

 

 私有財産限度や、中央集権的な思想について類似性があることが分かる。

また、ナチスと北の思想の背景にも類似性がある。

北の思想には、自由主義的原則(私有財産、普通選挙)がある一方、社会主義的原則(限度性を設ける)もあり、財閥、藩閥政治に対する不満を持つ社会主義的であった。彼の思想は、貧しい農村出身の青年将校達の心を捉えた。

ナチスの思想も、第一次世界大戦後のドイツ政治への不満から生まれたという点に類似性がある。

 

5.総括

こうして見てくると、北一輝は日本のナチスと言えるのではないか。日本独自の天皇という軸がこの問題を複雑にしているが、天皇制についての軸を除けば、彼は全体主義に近い思想で、ナチスとも通じる部分がある。